冷淡なる薔薇の王子と甘美な誘惑
「自分の大義を捨てると決めたら、私はもう、君を手放したりなどしないと、思ってしまっている」

 だらしなく身体にまとわりついていた真っ白のエプロンが、静かに取り払われた。
 心の中がそのまま暴かれてしまいそうで、恥ずかしさに胸元に手を集める。

「この国を出たら、私はもう何一つ持っているものなどなくなってしまうぞ? それでもいいのか?」
「ディオン様は、わたくしを大切に想ってくださるお心をお持ちではないですか」

 思いの外、出した声が震えたフィリーナの手を、大きくて温かな掌が優しく包んでくれる。
 片方ずつ長い指が掌に絡みつき、胸を開くように寝台に縫い留められた。
 晒される心が、愛おしさと恥ずかしさに最大限の脈を打つ。

「このまま、すべてを私に委ねてくれるのか?」
「はい」
「それが何を意味するのか、わかっているか?」
「はい、わたくしはディオン様に、永遠を誓います」
「フィリーナ」
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