冷淡なる薔薇の王子と甘美な誘惑
「あ、ああ、そうだ……妾下がりの女の娘だ。王宮の敷地内に住まわせてやっているだけでも感謝してもらいたいものだ!」

 ぞっとした。
 レティシアが、先ほど言っていた言葉の意味を、はっきりと理解することができた。

 ――“惨めなままで生涯を終えるつもりは――……”

 王女でありながら、レティシアはこれまでずっと、国王に虐げられながら生きてきたのだ。
 王宮の外の寂れた離れで慎ましく、それでも王女としての品位を落とさないように。

 どれほど心に深い傷を負い、毎日を過ごしてきたのかと考えると、フィリーナは喉の奥を苦しく締めつけられるようだった。

「しかし、身体を捧げるくらいしか使い道のなかった母親も、バルトという大国に売りに出せるほどの美女を残してくれたのはありがたかったがな!」

 ――なんてことを……っ、自分の娘なのに……

 首を取ると宣言されたからなのだろうか。
 国王はおかしそうに笑いながら、開き直ったようにご自分のずれた感覚を隠すことなく打ち明けられる。

「あなたという方は……」

 国王のあまりに横暴な言葉に、唖然とするのはフィリーナだけではない。
 ディオンもまた、手にしていた剣を震わせるほど、怒りを覚えているのが見て取れた。
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