冷淡なる薔薇の王子と甘美な誘惑
「残念です。心から、失望いたしました」

 すっと高く掲げられる剣が、ぎらりと妖しく切っ先を光らせる。
 まさか、と思った途端に、国王に向かって剣が振り降ろされた。

「ディオン様……っ!」

 首を取るというのは形だけだと思っていたのに、ディオンの行動がたちまちに恐怖を煽る。
 国王の情けないような悲鳴が聞こえたかと思うと、振り下ろされた切っ先は倒れたままの国王の顔の真横に、真っ直ぐに突き刺さっていた。

 最悪の事態にならずに済み、フィリーナはほっと息を吐く。

「たった今、ヴィエンツェ国国王、ジョゼフ・ヴィエントは消えた。
 ただいまをもって、ヴィエンツェ国は事実上、バルト国の領地となった。
 すべての法令、政治は、バルト国の王政の下に取り扱われる」

 いつの間にかぴくりとも動かなくなってしまった国王。
 どうやら恐怖のあまりに気を失ってしまったらしい。
 床を突き刺した剣を抜き、鞘に納めるディオンは辺りを見回した。
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