冷淡なる薔薇の王子と甘美な誘惑
「ディオン様ッッ!!!!」

 叫んだのはダウリス。
 部屋を割りそうなほどの声に、恐る恐る目を開ける。
 ぼやけた視界に見えたのは、目の前で広い背中がゆっくりと崩れていくところだった。

 時の流れが、自然に反し緩やかに刻まれる。
 無音の中で崩れ落ちていったのは、ディオンのたくましい身体。
 その向こうから現れたグレイスは、碧い瞳を見開いていた。

 剣を下ろしたままのその顔に見える斑点は、赤い鮮血。
 誰のものなのかわからないそれが、返り血だということは感覚で理解する。
 振り下ろされる剣に身構えていた身体は強張ったまま、目線だけを足元に落とした。

 目下に見たのは、横たわるディオン。
 衣服の裂けたところが、赤黒く染まる姿を見て、息が止まった。

「……――――ッ!!!!」

 呼吸をしないまま絶句し、息を吐かずにディオンの名を全力で叫んだような気がした。
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