冷淡なる薔薇の王子と甘美な誘惑
 せっかく拭ってもらった涙も、また滝のように流れ出してくる。
 赤い斑点に重なり落ちる涙は、ディオンの綺麗な頬を汚しながら転がっていく。

 こんな悲劇を、どうして望むことができたのだろう。
 最初、ディオン様のお命を奪おうとしたのは……たしかにフィリーナだ。
 でも、自分の心が盲目になっていたのだと気づいて、せっかく避けられた事態だった。
 その過ちを償うためにも、自分がディオンを全力で守ろうと心に決めたのに。
 のちに気づいた自分の大切な心で、ディオンを支えようと誓ったのに。

 ――どうしてこの結末を変えられなかったの――……?

「……オン様、ディオンさ、ま……っ……」

 嗚咽交じりの声では、ディオンに届かない。
 必死で呼びかけようとしているのに、壊れてしまいそうな心が身体に言うことを利かせてくれない。

 無力な自分に絶望し、ただ泣くことしかできずにいると、不意に、抱きしめる温かい身体が、フィリーナの手から引き取られた。
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