冷淡なる薔薇の王子と甘美な誘惑
 頬を包んでくれる掌が、心から願いを乞うているのが伝わってくる。
 お願いされるなら、叶えてやらないわけはない。
 もちろん、それどころではない気持ちの方が大きかったけれど、涙で濡れる掌に擦り寄り、やんわりと瞬いてから口元を緩めた。

「やはり、愛らしい……またいつか……私の前で……」
「はい、いつでも。今日でも明日でも、これから先、毎日だって、ずっと……っ」

 嬉しそうに目を細められるディオンの瞼が、そのまま力を失くしていく。

「……フィリーナ……ありが……う……、……愛してい――……」

 ふっと澄んだ声が途切れて、漆黒の瞳が瞼に隠される。
 頬に触れていた掌はフィリーナが握っていなければ、そのまま取り零してしまいそうだった。

「……っディオン様――……!!」

 ――嫌、嫌よ、嫌……ッ!
 目を開けてくださいませ、ディオン様!!

 心臓が潰れてしまいそうで、喉の奥からは自分の泣き声しか出てこない。
 呼びかけたいのに、情けなく嗚咽が溢れ返るだけだ。
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