冷淡なる薔薇の王子と甘美な誘惑
「娘、名は?」

 それでも、グレイスのまろやかな声は、たしかにフィリーナの耳に届く。

「ふぃ、フィリーナにございます」
「フィリーナ。
 時々でいい、話し相手になってもらえないか?」
「わわわわたくしが、で、ございますか……っ!?」
「嫌か?」
「そ、そんな滅相もございません! 身に余る光栄でございますっ!」
「そうか、それなら早速」

 持ってきていた桶に水を汲むと、グレイスはよっと重そうにそれを腕に抱えた。

「これから馬の手入れをするんだ。
 お前のこれが終わるころには、僕も部屋に戻っているだろう。
 それからで構わないから、お茶を頼みたい」
「は、はいっ、かしこまりました」
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