冷淡なる薔薇の王子と甘美な誘惑
 ぴょこりと頭を下げて直ったときには、白銀の髪は太陽に透かされるように照っていた。
 陽の光に負けない神々しさを放ちながら、グレイスは馬舎の方へと消えていく。
 圧倒されるような高貴な気配がこの場から消えると、フィリーナの足はずるりと脱力した。
 その場にしゃがみ込み、交わした会話の内容を頭の中で繰り返す。

 ――私なんかが、グレイス様とお言葉を交わすなんて……
   それどころか、お話しの相手を頼まれて――……

 昨日受けた衝撃が消えたわけではないけれど、今起きた出来事はそれ以上に頭を混乱させた。
 頬がたぎるような熱を持ったまま、まだ目が覚めていないような気さえする。
 事態は思いがけず好転したのだろうか。
 混乱を引きずったまま、洗濯を終えたフィリーナは、メリーにもう一度反省の意を伝える。
 この後グレイスにお茶を頼まれたことを告げると、メリーは慣れた手つきで準備をしてくれた。



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