冷淡なる薔薇の王子と甘美な誘惑
「こちらへ」

 言われただけなのに、身体は導かれるがままにディオンへと顔を寄せる。

「私も、愛しているよ」

 欲しくてたまらなかった言葉が、澄んだ声で紡がれる。
 それだけで、心は満足げに啼いた。
 触れずともを引き寄せる瞳を見つめたまま、身を屈めて口唇を寄せる。
 まるで、あの日の誓いのように合わせた口唇は、これまでに感じたことのないような熱さを孕んでいた。

 ――愛しています、ディオン様。
 これから先も、ずっと……私は、心をディオン様に捧げ続けます。

 一度隙間を持った口唇は、また角度を変えてしっかりと重なり合う。
 二人の心を結び付けるように、深く深くお互いを絡め合わせた。



.
< 318 / 365 >

この作品をシェア

pagetop