冷淡なる薔薇の王子と甘美な誘惑
「……嫌です……ディオン様……」

 ――ああ、私は今、呆れるほど醜い女に成り下がっている。

「……他の誰かと並ばれるお姿を見るのは、嫌です……」
「……」
「どこの誰とも知らない方をお妃として迎えられるなんて、歯痒くて仕方ありません」
「フィリーナ」
「愛しております、ディオン様……っ。
 わたくし以外の誰かの、手を、取らないでくださいませ……っ」
 
 低身分の人間としてあるまじきことだ。
 主の、まして国王となられた人を、使用人ごときが自分のものにしてしまいたいなどと思うなんて。

 頭ではわかっている。
 そんなわがままを言ったところで、仕方のないこと。
 国王と結ばれるなんて、空想の世界だけの夢物語だ。

 でも、ディオンを愛してしまった心は、全然納得しようとはしていない。
 ただひたすらに、愛しい人が欲しいと、苦しみに喘いでいる。
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