冷淡なる薔薇の王子と甘美な誘惑
「フィリーナ」

 涙に濡れた手が、優しく取り上げられる。
 開けた視界に映り込んできたのは、月の明かりに照らされたディオンのひざまずいた姿。
 フィリーナの片手を取り、真剣な眼差しで見上げてくる。

「戴冠式のあと、ようやく父に話をすることができた」

 漆黒の瞳に綺麗な煌めきが揺れた。

「国王となって初めて、誰にも侵されない宣言をしてきた」

 片膝を立てたディオンは、真っ直ぐな瞳で告げる。

「フィリーナ、君をバルト国の王妃として迎える。
 受けてくれるか?」

 一体何を言われているのかわからずに、目を見開いたまま固まってしまう。
 真剣な表情を崩されたディオンは、いつからかよく見せてくれるようになった笑みで柔らかく表情を崩し、澄んだ声で優しく言い方を変えた。
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