冷淡なる薔薇の王子と甘美な誘惑

 想いをたしかめ合い、お互いに見つめ合う。
 自然と重なる口唇は、月夜の下での永遠の誓いだ。
 風に撫ぜられる薔薇達が、色めき立つ。
 離れがたく口唇を離すと、ディオンは改めてフィリーナを急かした。

「さあ、皆が王妃の登壇を待っている。
 正装は、母のドレスを纏っていくといい」
「はい」

 月明かりが作るスカートの影は、舞踏会場に着くまでに本物のドレスに変わる。

 ずっと遠くに憧れていた煌びやかな世界。
 まだ眩しすぎて目を細めてしまうけれど、隣に愛する人の姿があれば、お互いに支えとなって立つことができる。

「本日ここに、バルト国王妃を迎え入れることとなった――……」

 まるで夢物語のような現実が、一人の娘を最上の幸せへと導いてくれた。





――fin.

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