冷淡なる薔薇の王子と甘美な誘惑
 決する心が、顔を上げさせる。
 自分の影を映す瞳を見上げて、震える口を開いた。

「はい、……わたくしでよければ」

 恥ずかしながらも掠れるような声で呟くと、ディオンはほっとしたように目を細める。
 その様子につられて肩の力が抜け、自然と表情は緩んで口端を引き上げた。
 はっとしたディオンは咄嗟にフィリーナを強く抱きしめる。

「愛しているよ、フィリーナ」

 耳元でそっと囁かれても、それを受ける心は何度でも大いに弾け飛ぶ。
 国王となる高貴な人と結ばれることがあるだなんて、そんな下級の娘の人生を誰が予想できただろう。

「わたくしもでございます、ディオン様」
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