冷淡なる薔薇の王子と甘美な誘惑
 そんな二人を後ろから冷めた目で見るグレイス。
 いつもの胸やけを感じて目を逸らすと、「きゃ」と聴こえた小さな悲鳴に視線を戻した。

「大丈夫か?」
「も、申し訳ございません。まだかかとの高い靴に慣れていなくて……」

 段を踏み外したのだろう。
 階段の中央で、細い身体が凛々しい腕に抱き留められている。
 不意に近づいた距離に、フィリーナはさっきよりもさらに顔を赤くした。
 その羞恥を知ってか知らずか、ディオンは抱き寄せた愛しい姫君に吸い込まれるように顔を寄せる。
 事態に気づいた使用人達が、これまた色香に浮つき頬を染める様子に、グレイスはフロア全体に響くような大袈裟な咳払いをしてみせた。

 はっと我に返る二人。
 階下に並ぶ使用人達も色めき立った雰囲気を一蹴され、グレイス以外の全員が背筋をしゃんと伸ばした。
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