冷淡なる薔薇の王子と甘美な誘惑
「僕の事情を知っているお前が、この先どうなるのかは……僕次第だということをわかっているか?」

 息をするのも忘れるほどの恐怖が、わずかに働いていた抵抗力を弱らせる。
 耳に直接しっとりとした口唇が押し当てられて、そこから駆け下りるぞくりとした感覚に肩をすくめた。

「もしかしたらお前は、誰かに話すかもしれない」
「そっ、そんなことは……っ」
「いや、わからない。他の使用人に話すかもしれない。あるいは、……兄に告げ口するかもしれない」
「わたくしは……っ」
「僕はお前をどうにでもできることを、覚えておいた方がいい」

 首根っこを抱えられ、上を向かされるフィリーナを覗き込む碧い瞳。
 妖しく光る瞳の色に、心臓が怯えたように脈を速く刻む。

「フィリーナ……信じているよ」

 囁いたまろやかな声は、再びフィリーナの口唇の中へと注ぎ込まれる。
 今度は抵抗することを許されずに、感触を忘れられなくなるほどの口づけが、小さな口唇をしっとりと犯した。




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