冷淡なる薔薇の王子と甘美な誘惑
「物資はどのくらい持てそうだ?」
「ヴィエンツェ国民の数であれば、三日分は支援できるかと」
「そうか、こちらも限りはあるからな。ひとまずはそれで対処しておこう」
「御意に」

 数人の従者を引き連れて闊歩してくるのは、ディオン王太子だ。
 はためく漆黒のマントは、これからの遠出を意味している。
 フィリーナがどきりとするのは、グレイスの言葉と、懐に仕舞っている小さな包みのせい。
 そして、間もなくこちらへ近づいてくる重く圧されるような存在感。
 今朝と同様に、なるべく目を合わせることのないよう、慌ててその場で頭を下げた。
 難しい話をしながら、数人の足音が通り過ぎていく。
 いつもとは違い、お辞儀をした喉の奥から、心臓が飛び出てしまいそうに音を立てた。

 ――ディオン様が、お戻りになられたら……

 破裂しそうな胸に手を当てて、静かに深呼吸をする。
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