冷淡なる薔薇の王子と甘美な誘惑
 声と足音がすっかり消えてしまってから、ワゴンに手を置いた。
 フィリーナの中の良心が、とてつもない罪悪感を引き連れてくる。

 ――これは本当に、致さなければならないことなの……?

 グレイスに握らされた小さな包みが、一体何なのか、フィリーナは気づかないふりをするのも苦しかった。
 

 ――“どうすることがお前にとって一番最良なのかは、わかるだろう?”

 夢幻に揺られる極上の幸せと、目を瞑りたくなるほどの恐怖。
 振り幅の大きな選択肢は、ワゴンの持ち手を握る掌を、酷く汗ばませていた。




.
< 60 / 365 >

この作品をシェア

pagetop