冷淡なる薔薇の王子と甘美な誘惑
「何かあった?」
広間の扉の開き、その少し離れたところから訊ねてきたのは……グレイスだ。
フィリーナの身体はびくりと飛び上がり、掌では抑えきれないほど口唇が震えだす。
「それが……」
何も知らないディオン王太子が口にしようとする状況は、フィリーナの不安を盛大に掻き立てた。
近づいてくるグレイスにありのままを話せば、フィリーナはグレイスの逆鱗に触れ、事を致そうとした罪に問われるかもしれない。
身を亡ぼすことになりかねない想像と、遅すぎる後悔が、一層身体の震えを誘う。
目の前が真っ暗になるフィリーナのそばで、ディオン王太子は、グレイスに事の次第を話し出した。
「考え事をしながらコーヒーを口にしたら、思いのほか熱くて、思わずカップを放ってしまったんだ。そうしたら、運悪くこの娘の手に当たってしまって」
身構えていたフィリーナの頭上では、身に覚えのないことが打ち明けられた。
広間の扉の開き、その少し離れたところから訊ねてきたのは……グレイスだ。
フィリーナの身体はびくりと飛び上がり、掌では抑えきれないほど口唇が震えだす。
「それが……」
何も知らないディオン王太子が口にしようとする状況は、フィリーナの不安を盛大に掻き立てた。
近づいてくるグレイスにありのままを話せば、フィリーナはグレイスの逆鱗に触れ、事を致そうとした罪に問われるかもしれない。
身を亡ぼすことになりかねない想像と、遅すぎる後悔が、一層身体の震えを誘う。
目の前が真っ暗になるフィリーナのそばで、ディオン王太子は、グレイスに事の次第を話し出した。
「考え事をしながらコーヒーを口にしたら、思いのほか熱くて、思わずカップを放ってしまったんだ。そうしたら、運悪くこの娘の手に当たってしまって」
身構えていたフィリーナの頭上では、身に覚えのないことが打ち明けられた。