徳井涼平の憂鬱
愛おしそうに朱希を見つめる涼平。つながれた手と手。無邪気な朱希の顔。切なそうに手を離す涼平。

すぐには声を掛けられなかった。

「あいつ・・・あんな顔するんだ・・・」
「え?」
「ん? いや、涼平・・・小さい頃は可愛かったのにな、って」
「ふふ・・・今でも可愛いけどな。」
「そう?」
「うん。だって私の弟だもん。」
「なんだよ、それ。」
「また、デートしてもらおう。」
「ダメ。」

 咄嗟に口をついて出てしまった。

「ダメ、朱希は俺の」

 匡平は朱希をギュッと抱きしめた。

「俺のになったから、涼平くんが弟になったんでしょ? 自分より一回りも上の嫁のことで兄貴が焼いてるなんて知ったら、涼平くんに笑われるわよ。」

 一回りも年の差があるようには見えなかった。涼平は俺よりも大人びた顔立ちだし、小柄な朱希と歩いているとちゃんとカップルに見えた。

「旦那さま?」
「いいね、ソレも一回言って。」
「旦那様、仕事で何かあったんですか? 今日はナーバスですね。」
「生理中。」
「は?」
「だから、今日はエッチはダメよ。」
「また、匡平ったら。」

匡平は、くすくす笑う朱希に甘えるように彼女の胸に顔を埋めた。


 その頃涼平は、映画の半券を大事にしまい。
朱希のくれた万年筆を握りしめてベッドに横になっていた。

 この夜、年若い恋敵を憐れんで兄が彼女を抱かなかったことなど知る由もない。
ただ、彼女との楽しい時間だけを胸に描こうと、ギュッと目をつむるばかりだった。


Fin.




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