現状報告!オタク女子ですが、エリート上司に愛されてます。
「なんだ。そんなこと?」

との向こうから、志木さんのどこか気の抜けたような声が聞こえてくる。

そんなことじゃないもん。恥ずかしいんだもん。



「わかった」

不意に、彼のやさしげな声が戸の向こう側から届いてくる。


「でも、やっぱ。少しでもいいから、顔見たいよ。顔見て謝りたいっていうのもあるし。
数センチでいいから、戸開けてくれないかな?」

やさしくて温かい声でそう言われたから。


「……っ」

なんとなく、断れなくて。


私はゆっくりと、彼の言葉通り数センチだけ戸を開けた。

戸の隙間から、彼と目を合わす。


「沙代。良かった」

「……今、私の顔見て絶対ブスって思ぃしたよね。絵に描いたようなオタクだって思いましたよね」

「なに? その被害妄想」

そう言いながら志木さんはフッと笑った。
笑ったというか笑われたんだと思うけど。

……でも、「ようやく目合わせてくれた。ずっと避けられ続けたらどうしようかと思ったんだぜ」って言うから。
……安心して笑ってくれたのかな、なんてことも思ってしまって。



「あ。コレ、ケーキ。良かったら家族の人と食べて」

そう言って志木さんは私に、ケーキの箱を手渡した。

それを見て私は……。


「っ⁉︎ コレ、エトレアのケーキじゃないですか‼︎」

エトレアというのは、超有名・超高級のケーキ専門店だ。
多分、一番安いケーキでも千円以上する……。

勝手な想像だけど、志木さんって、人へのお土産に一番安いものは選ばなそうだ……。そうなると……。


「い、いただけません! こんな高級なもの!」

私は志木さんに、箱を突き返した。
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