次期国王は初恋妻に溺れ死ぬなら本望である
(嘘じゃないわ。あの時は本当にそう思った。一度きりでも構わないって。けど‥‥)
「俺はーー」
ディルがまっすぐにプリシラを見つめた。どちらかといえば冷たい印象を与える彼の瞳が、いまは燃えさかる炎のような熱を帯びている。
「俺は、一度きりなんて無理だ。お前は俺にとっての禁断の果実だったんだ。一度でも味わってしまったら‥‥この身が朽ち果てるまで、求め続けてしまう」
「そんな大袈裟な」
「大袈裟じゃないよ。それがわかってたから、ずっと我慢してた。けど、もう覚悟を決めた。なにがなんでもお前と添い遂げてみせる。ーー必ず迎えにくるから、待ってろ」
プリシラは小さくうなずき、馬上の人となったディルを見上げた。馬のいななく声にかき消されぬよう、大きな声で叫んだ。
「ーーディル!私も同じだわ。一度きりなんて、嫌よ。皺々のおばあちゃんになるまで、あなたと一緒にいたい!」
馬が勢いよく大地を蹴り上げ、土埃が舞う。あっという間にディルの背中が小さくなっていく。ディルは右腕を高くかかげて、プリシラに束の間の別れを告げた。



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