次期国王は初恋妻に溺れ死ぬなら本望である
プリシラが満足気に自分を眺めているのを、ディルは黙って受け入れていた。
彼女には彼女なりの悩みがあることも知らずに、ひどいことを言ってしまった。その罪滅ぼしに少しくらい愚痴を聞いてやってもいい。そんな気持ちになっていた。

「私がちゃんと出来ないせいで、先生にまで嘘をつかせてるの。それは嫌だわ」
プリシラは唇をきつく噛み締めた。家庭教師たちは口を揃えて、プリシラを優秀だと言う。けれど、それがお世辞であることに彼女は気がついているのだ。
「そんなの、放っておけ」
ロベルト公爵に媚びたいだけの連中なんて、どうせロクなもんじゃない。そんな人間のために気を病むことはない。
ディルはそう言ったが、プリシラはきっぱりと首を振った。
「見かけによらず頑固なんだな。知ってるか?お前みたいなのをいい子ぶりっ子って言うんだ」
ちゃかすつもりでそう言ったが、プリシラはまっすぐにディルを見つめ返してきた。挑むような強い眼差しに、思わずごくりと息を飲む。自分より年下の、まだまだ子どもだと思っていた彼女に気圧されたのだ。この瞬間のプリシラは、ディルの知るどんな美女よりも気高く、美しかった。
「そうよ、いい子ぶりっ子。けど、それが私のすべきことなんだもの」
「なんで?みんなの期待に応えたい?‥‥やめとけ、やめとけ。周りの人間なんて勝手なもんだぜ。頼んでもないのに期待して、あっというまに失望して離れてく」
いまは子どもらしい健気さで一生懸命なのだろうが、プリシラもすぐに現実を知ることになるはずだ。少なくとも、ディルの知る大人は勝手な人間ばかりだ。
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