次期国王は初恋妻に溺れ死ぬなら本望である
「フレッドがどうなろうと、俺が王位につくことはないだろ」
「なぜです? 貴方の王位継承順位は第二位。フレッド殿下になにかあれば次の王太子は貴方ですよ」
「我らがミレイア王国の民は信心深いからなぁ。呪われた子どもが王位に就くなんて、貴族はもちろん平民たちも大反対だろう」
「占いだの予言だの、私はくだらないとしか思いませんけど」
「占いじゃなくて、ありがたいご神託だ。国民が信心深いのはいいことじゃないか」
「そうですかね。宗教が力を持ち過ぎると、国は滅びますよ」

ーー呪われた子ども。それはディルが誕生した瞬間に、大神官から告げられた言葉だった。本来は神の祝福を受けるという儀式なのだが、ディルは真逆の洗礼を受けた。

『‥‥これは生まれきてはいけない子ども。王都の民が悶え、苦しむ姿が見える。呪われた子、大きな災いをもたらすだろう』

そしてその予言は正しかった。ディルが生まれたその日の夜半過ぎ、王都は大火に見舞われたのだ。小さな火種が強風に煽られ、あっという間に街全体が炎に包まれた。王都は半焼。平民、貴族の別なく多大な被害が出た。最優先で消火活動を行なった王宮でさえ一部が燃え落ちたほどだった。

母親の身分が低くなんの後ろ盾もないところに、この予言だ。冷遇されるのも道理だろう。フレッドの母である前王妃が庇ってくれなければ、とっくに廃嫡され捨てられていたに違いない。
だが、ディルは自身の生い立ちを特別どうとも思っていなかった。食うに困らないだけで平民たちよりはずっと恵まれているし、常に注目され品行方正であることを求められるフレッドよりずっと自由で気楽だ。
ただ、自分を生んでしまったことで寿命を縮めた母親と目の前にいるターナにだけは申し訳ないという気持ちがあった。
< 16 / 143 >

この作品をシェア

pagetop