次期国王は初恋妻に溺れ死ぬなら本望である

束の間の楽しいひと時。だけど‥‥公爵は意図的にフレッドの話題を避けている。そのことにプリシラは気がついていた。
父がわざわざ会いに来てくれるなんて、もしかしてフレッドの行方がわかったのかもしれない。そんな期待を抱いていたけれど、どうやら違うらしい。

(よい知らせなら真っ先に教えてくれるはずだものね)

ふいに会話が止まり、公爵はわざとらしくゴホンと咳払いをした。
そして、神妙な顔で娘を見やる。
「‥‥お父様？」
「プリシラ。お前とフレッド殿下の婚姻は白紙に戻すことになった」
「‥‥え？」
公爵の表情、声のトーンから楽しい話題でないことは予想していた。だが、結婚の取り止めとは‥‥想定外だった。ミモザの宮に入ってからの婚約破棄だなんて、長いミレイア王国の歴史上でも前代未聞だろう。
「どうして？ 私はフレッド殿下が戻られるまで、いつまででも待つ覚悟です」
フレッドの良き妻に、この国の素晴らしい王妃に、ずっとそう言われてきた。期待に応えるべく、精いっぱいの努力もしてきたつもりだ。その歩むべき道のために‥‥捨てたものだってあった。
いまさら、違う生き方など考えられない。

公爵は目を伏せ、ゆるゆると首を横に振った。
「フレッド殿下は、重篤な病のため王太子の位を降りることになった。明日、国民に向けて正式に発表する予定だ」
「そんなっ！」
「新しい王太子はディル殿下だ」

(ーーフレッドが重篤な病？ディルが王太子？ どうして急にそんなことに？)

「ご、ごめんなさい。あまりにも唐突で、頭が混乱して‥‥。なぜそんなに急ぐ必要があるの？フレッド殿下は病気なんかじゃないし、きっと無事に帰ってくるわ」
明日国民に発表すると言っている以上、もう覆ることのない決定事項なのだろう。それでも言わずにはいられなかった。

(だって‥‥認めてしまったら、フレッドはもう戻ってこないと言っているようなものだわ)