次期国王は初恋妻に溺れ死ぬなら本望である
「いらない。ディルがもらってくれないのなら、こんなもの‥‥」
初めて見たときはその美しい輝きに感動すら覚えたのに‥‥今はただの石ころ以下に思えてしまう。宝石にもディルにもなんの罪もない。ただの八つ当たりだ。公爵令嬢としても、恥ずかしい振る舞いだ。頭ではわかっているのに、プリシラは暴走する感情を止めることができなかった。
「いらない。こんなもの、いらない!!」
プリシラは力任せに木箱を放り投げた。投げた衝撃で、木箱の蓋が開いてしまい指輪が転げ落ちる。指輪はコロコロと丘を下っていき、あっというまに行方がわからなくなった。が、プリシラはもう指輪など見ていなかった。ディルから逃げるようにその場を走り去った。
(馬鹿みたいっ。ディルも同じ気持ちでいてくれるなんて‥‥私の勝手な思い込みだったんだわ)


「‥‥くそっ」
ディルは寄りかかっていた木の幹に思いきり右腕を打ちつけた。ガンと響くような痛みが走ったが、それ以上に心が痛かった。
遠ざかっていくプリシラの背中を狂おしいほどの眼差しで見つめる。だが、追いかけて抱き締めてやることはどうしてもできなかった。
(最初からわかっていたことじゃないか。どうあがいても、俺のものにはならないのだと‥‥)
何度も何度も、そう言い聞かせて自分の気持ちを抑えてきたつもりだった。覚悟はとうにできているはずだった。それでも、こんなにも苦しいのか‥‥。
「よりによって、なんで今日だったんだよ。プリシラ‥‥」
考えても意味のないことだ。たとえプリシラの愛の告白が昨日だったとしても明日だったとしても、ディルにはどうすることもできない。今日と同じ答えを返すしかなかっただろう。
しかし、よりによって今日だったというのは一体なんの皮肉だろうか。自分はそんなにも神に厭われる存在なのだろうか。


次期国王、王太子フレッドとロベルト公爵令嬢であるプリシラの正式な婚約が発表されたのはその日の晩のことだった。











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