次期国王は初恋妻に溺れ死ぬなら本望である
ーー開ければわかる。
その言葉の意味をディルは理解してくれただろうか。自分の瞳の色と同じ色の宝石を贈る。それはこの国では愛の告白を意味していた。ミレイア王家に古くから伝わる習わしで、婚姻の証として互いの瞳と同じ色の宝石を交換するのだ。生涯、貴方だけを見つめます という意味をこめて。その習わしはいつしか庶民の間にも広まり、夫婦だけでなく恋人同士でも宝石を贈り合うようになった。プリシラも幼い頃からこの習わしに憧れを抱いていた。
(いつかは私も‥‥ずっとそんなふうに夢見てきたけれど、とうとう実現する日がきたのね! )
ディルはきっと、少し照れたような笑顔でこれを受け取ってくれるだろう。いつもの憎まれ口もこんな時くらいは控えめにしてくれるだろうか。プリシラはこれっぽっちも疑っていなかったのだ。彼は自分の気持ちを受け止めてくれる、無邪気にそう信じていた。
だから‥‥次の瞬間、ディルの口から発せられたその言葉を現実のものとはどうしても思えなかった。
「え?」
「だから、いらないって」
ディルはプリシラの思いの詰まった宝石を無感動に一瞥しただけで、すぐに木箱の蓋を閉めてしまった。ディルに突き返され、行き場をなくしたその箱をプリシラは呆然と見つめた。
「ーーどうして?あっ、もしかしてペリドットは好きじゃなかった?それとも指輪なんて趣味じゃないとか‥‥」
プリシラは必死に理由を探した。ディルは自分と同じ気持ちではなかった。その残酷な可能性から目を背けたい一心で。けれど、彼女の微かな望みはばっさりと断ち切られた。ディルにはっきりと告げられてしまったのだ。
「ただの土産なら遠慮なくもらっとくけど‥‥プリシラの瞳と同じ色の宝石は受け取れない」
まるで頭から冷水を浴びせられたように、プリシラの心と体は急速に冷えていった。ほんの少し前までは、あんなに気分が高揚していたというのに。期待に胸をときめかせていた自分は、なんて愚かだったのだろう。滑稽すぎて涙も出なかった。
「悪いけど、それは自分のものにしてくれ。ネックレスかなにかに直したら、きっとよく似合うよ」
ディルらしくもないやけに優しい口調が、かえってプリシラを惨めな気持ちにさせる。ディルが悪いわけではない。そんなことは十分わかっているのに、目の前の彼を責めてしまいたくなる。





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