次期国王は初恋妻に溺れ死ぬなら本望である
ディルの香りに包まれ、それに呼応するようにプリシラの体は熱くなっていく。
足元から力が抜けていくようだ。
ディルと女たちはなにやら会話を続けているが、まったく耳に入ってこない。
(お、落ち着いて。たかが口が少し触れただけじゃない。こんなに動揺するようなことじゃ‥‥)

「おい、どうした?」
プリシラがはっと気がつくと、ディルが不思議そうにこちらを覗きこんでいた。
「あれ、あの子たちは‥‥」
「もう行ったよ」
ディルは彼女たちが走り去った方向を見つめながら言う。
「ふぅん。妻以外の女性には、ずいぶんと優しいのね」
プリシラの口調はいつになく刺々しかった。けれど、それも仕方ないだろう。
(新妻に夢中だなんて、どの口が言うのよ!あの夜からなんの音沙汰もなかったくせに)
「なんだよ、やきもちか?悪い気はしないが、もう少し可愛げのある言い方を勉強したほうがいいな」
「〜〜っ。やきもちなんかじゃありません」
プリシラがぷいっと顔を背けると、ディルはははっと声をあげて笑った。
「別に陰口くらい構わない。好きに言わせておけばいいさ」
「でもっ。そうだ、お父様に相談してみる。あなたは娘婿なんだもの。少しくらい力添えしたって、おかしくないでしょう?」
父親に頼るしかないというのが、やや情けなくはあるが‥‥プリシラの頼みなら、ロベルト公爵は快諾してくれるだろう。
公爵がディルの味方であることを示してくれれば、ディルの悪評も少しは収まるはずだ。



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