次期国王は初恋妻に溺れ死ぬなら本望である
フレッドは病と発表されたが、それを信じているものは王宮内にはいない。いや、もしかすると王都の市民にすら知れ渡っているのかもしれない。みな、フレッドが失踪したことを知っている。そのうえで、様々な噂話を楽しんでいるのだ。

娼館の女との駆け落ち、敵国のスパイに拉致されたなどという突拍子もない話も多かったが、やはりディルが黒幕だという説を語る人間が一番多い。それも、彼女たちのように、まるでそれが真実であるかのように話すのだ。
嘘か本当か知らないが、ついに王都警備隊がディルを調査し始めたという話も耳に入ってきた。

こんなに堂々と陰口をたたかれていることを考えても、王宮内でディルの立場は非常に危うくなっているのだろう。元々、後ろ盾がなく味方も少ないのだ。

「あの男が王位を継ぐなんて、ありえないわ。この国まで呪われてしまう」
「あなたたち。いい加減にーー」
エスカレートする陰口に耐えかねて、プリシラは声をあげた。
フレッドの失踪が悲しいのは同意するが、ディルも彼なりに国を思っている。呪われた王子などという下らない迷信で、彼を貶めることは許せなかった。

プリシラの存在に気がついた女たちは、慌てて口を噤んだ。さすがに妻であるプリシラに聞かれては気まずいのだろう。
「あ‥‥その‥‥」
とっさの言い訳も出てこないようだった。
プリシラはしっかり灸を据えてやろうと思っていたのだが、意外な人物がそれを邪魔した。

「失礼。妻が歓談の邪魔をしたようだね」
プリシラの口元をふさいだ大きな手はディルのものだった。
「ひっ。ディル王太子殿下‥‥」
彼女たちの顔面から血の気がひいていく。それとは対照的に、ディルはふわりと優しく微笑んでみせた。
「大丈夫。俺は近頃、この美しい新妻に夢中でね、他の女の顔はまったく覚えられないんだ」
言いながら、プリシラの髪にそっと唇を寄せた。

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