能ある鷹は恋を知らない
結局あれから高島さんと連絡は取っていなかった。
一応、場所だけは連絡したものの、業務的な可愛いげのない内容のまま送ってしまった。

気にしてもしょうがない。とにかく、今日はリフレッシュに来たんだから。

気分を切り替えて店に足を踏み入れた。

「乾杯~!」

それぞれに持ったビールジョッキを合わせて再会を祝う。
土曜日の夜は一段と店内も混んでいたが、個室居酒屋のおかげで外の喧騒はそれほど入ってこなかった。

「ほんと久しぶりだね~!」
「10年ってもう信じらんないよね」
「みんな集まれてほんと良かったよ。しかし鮎沢変わってないなぁ」
「え、ほんと?さすがに年取ったけど」
「芹香は昔から老け顔だったからね~。むしろ今は羨ましいよ」
「何それ褒めてるの?」

他愛ない会話が心地よかった。どれだけブランクがあっても時間を感じさせない、自分のルーツを知っている地元の友人は貴重だ。

「鮎沢は今何してるの?」
「歯科衛生士。最近転職したんだ。橋本くんは、沖縄で仕事してるんだよね」
「おう、焼けてるだろ。まだ小さいけどセレクトショップ開いたよ」
「え、すごいね!自分の店持つの夢って言ってたもんね!」
「…覚えててくれたんだな、さんきゅ」

そう言ってはにかむ橋本くんの表情は学生時代に戻った少年のようで、釣られて私も笑顔になった。

「同級生が夢叶えたんだもん、私も嬉しい」
「ゆくゆくはさ、もっと店を大きくして、こっちでも名前が広がるようにするのが今の夢だな」

やっぱり、自分で道を切り開いていく人はみんな良い顔をしてる。
そういうところは高島さんに似てるかもしれない。

「ふふ…叶えられるといいね」
「…ありがと。なんか、変わってないって言ったけど、鮎沢やっぱり変わったよ。…綺麗になった」
「え、何急に。照れるよー」
「いや、そんな顔して笑うなんて意外だった」
「恥ずかしいけど、ありがと」

私が変わったように見えるなら、それはやっぱり高島さんのおかげなんだろうな。

彼は私が全力で寄りかかってもびくともしない人だから。
安心して全てをさらけ出すことができる。

なんか、高島さんに会いたくなってきた…。

一度そう思ってしまうと高島さんのことが気になって落ち着かなくなる。
食事も落ち着き、二次会をどうするか話題に上り始めた頃、バッグを持って立ち上がった。

「ごめん、私、先に帰るね」
「えー、芹香二次会は?」
「明日朝から約束あって…ごめんね、5人で楽しんで!」

不満そうな友人たちの声に後ろ髪を引かれながら、そう言い残して店を出た。
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