能ある鷹は恋を知らない
金曜日。仕事終わりに高島さんと待ち合わせ、軽くご飯を食べてから部屋に来ていた。
付き合い始めてからすでに何度も訪れているとはいえ、この部屋の豪華さにはなかなか慣れない。

「やっと週末ですね」
「俺は明日も仕事がある」
「そうなんですか。大変ですね」

高島さんがスーツの上着を脱いでソファに掛ける。
勝手知ったる部屋の冷蔵庫から水を取り出して二人分をテーブルに置いた。

「きみは飲まないのか」
「私も明日飲み会なんで、今日はセーブします」
「飲み会?」
「はい。同窓会なんです。高校の友人たちと」

そこで水を飲んでいた高島さんの手が止まった。

「聞いていないが」
「今言ってます」
「どっかのホテルでも貸し切るのか」

いや、普通貸し切っても宴会場一つくらいですけど。

「いえ、今回は6人だけなので普通のお店です」
「6人?それは皆女性なのか」
「3人は男性ですけど」

一瞬の間、沈黙が二人を包み込んだ。
心なしか私を見る高島さんの目が鋭くなった気がする。

え。高島さん、機嫌悪くなってる…?

「…それは同窓会ではないだろう」
「え?」
「きみは恋人の前で男と飲みに行くと宣言するのか」
「だから、そういうんじゃありません」
「じゃあ何だって言うんだ」
「だからただの同窓会だって言ってるじゃないですか!」


という経緯で私は今タクシーの中だ。
金曜日の夜というのもあり、私の心とは反対に街はより一層浮かれているように見えた。

本当なら久しぶりに高島さんの部屋で泊まりだったはずなのに。
せっかく忙しい恋人が時間を作ってくれたのに何やってるんだろう。

車内にため息を吐き出す。
自分も大人げないことは分かっていた。
本当なら部屋を飛び出す程のことでもなかったかもしれない。

でも。

昨日の綺麗なお姉さんたちに笑いかける笑顔がフラッシュバックして怒りが爆発してしまった。
高島さんは普段から御堂さんのような綺麗な人と接する機会も多い。
言い寄られることだってたくさんあるはず。

そんな見えない女性の影に対する不安と、高島さんが滅多にない飲み会に快く送り出してくれない不満が合わさってしまった。

「高島さんのバカ…」

こんなに好きなのに、それくらい余裕で流してくれれば良いじゃない。

どこか罪悪感と怒りとが混ざりあった複雑な気持ちで帰途についた。

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