その件は結婚してからでもいいでしょうか

男性が女性の背中に唇を這わせながら、片手だけでブラのホックを外した。

美穂子は思わず目を瞑る。

ヘッドフォンから、キスの音と女性の甘い声。

「あっ」
女性の声が耳の奥に響く。

「……煽るなよ。どうなっても知らないからな」

あれ!

美穂子は目をパチンと開いた。

何か思い出しそう、このセリフ。聞いたことがある。どこかで……そうだ、昨日、耳元で……。

美穂子は勢いよく立ち上がった。ヘドフォンが耳から外れる。

洪水のように、昨晩の出来事が蘇ってきた。その光景に溺れそうになって、息が止まりそう。

先生が「煽るな」言った。
低い男の人の声。それからわたしの首筋にキスをして、シャツをたくし上げる。先生の手のひらの感触。大きくて、骨っぽい。熱い息が首から、鎖骨、胸元に下がる。

美穂子はあまりのことに顔を覆った。

背中に手を回して、ブラのホックを外す。

手が、あの手が、わたしの胸に……。

「きゃーっ」
美穂子は思わず叫び声をあげた。

すぐにバンッと大きな音を立てて、ドアが開く。

「どうした?!」
先生が飛び込んできた。

「変態ーっ」
美穂子はとっさに枕を投げつけた。
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