君のカメラ、あたしの指先

「……っ、どうもこうも……」


 一瞬だけ、ほんとに一瞬だけ。
 綺麗な瞳だな、なんて、見とれてしまった自分が憎かった。

 気づかれたくなくて目をそらした。それでも彼はあたしを見つめるのをやめてくれない。
 自分でそうさせたくせに、いざ見られるとなると恥ずかしいものだ。さっきまで冷静に論点を見極めていたくせに、急にその余裕が萎れていくのが分かる。

 認めるよ。だいぶ心が傾いてるって。
 だけど、だけど……いや、でも…………。

『吉野さんの書く小説、好きだから』

 その言葉が、耳の奥にこびり付いて離れない。

 真っ直ぐな言葉をくれるあなたのことが知りたい。
 そのくせ真意を悟らせない、あなたのことが知りたい。

 好きとはちょっと違うけど……どうせ形だけの「契約恋愛」だ。それなら頷いたって、いいんじゃないか。

 私は力なくうなだれた。彼が勝利の微笑みを浮かべた。


「はい、決まりだね」

 二年生二学期、初秋の頃。
 今日のあたしの選択を、未来の自分はきっと呪うだろう。

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