君のカメラ、あたしの指先

脇役から見える景色

 事の発端は、半月ほど前に遡る。

「あのね、あゆちゃん……話があるの」

 あれは確か、九月が始まった頃の話だ。
 放課後、いつもの通り黙々と部室で作業していたあたしのところへ、親友の結城有紗(ゆうきありさ)がやって来た。
 パソコンを叩く手を止めて、私は彼女へ向き直る。

「どうしたのこんな時間に、珍しいね」

 うちではわりと強豪の部類である吹奏楽部の彼女が、こんな時間に寂れた国語準備室へやってくるなんておかしい。
 話なら今日の休み時間にいつでも聞いたのに、わざわざ出直してきたということは……

「ま、いいや。話だよね? 座った座った」

 あたしは近くにあった椅子を引き寄せて、有紗を座らせる。
 近くにあったガラスのコップを二つ引き寄せて、魔法瓶に入っている冷たい麦茶をそれに注いだ。
 
 秋口とはいえ、まだまだ暑い日が続いている。家から持ってきた瞬間湯沸かし器とティーバックの出番はもうちょっと先だろう。


「いっつも思うけど、どうしてあゆちゃんところの部室ってこんなお家感漂ってるの?!」


「さあねえ、他に使う人がいないからじゃないかな」


 自分でもちょっと、私物化しすぎかなって思う時が無いわけじゃないけど。
 いいんです。好きにしていいっていう許可は取ってあるし。

「谷先生の『好きにしていい』は、そういうのじゃないと思うんだけど」

「なんでそういう時だけ勘がいいのよ」

 これだから鈍感娘は侮れない。
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