サトウ多めはあまあまデス
第15話 沈む心とつらい心
「は?どうして。」

 ケイちゃんはあからさまに嫌そう。

 そりゃそうだ。ケイちゃんにしたら真似ごとをさせられて(しかも女言葉で)嫌だよね…。

「だって4月になったら社会人でさ。新しい環境で上手くやっていけるのか心配で…。」

 これは本当。このことをママと話せたらいいなって前から思ってた。

 悩んでいた様子のケイちゃんがため息混じりに手で顔を覆った。
 そのせいで表情は見えなくなってしまった。

「今日は遅いから無理だろ。たぶん電話は1日1回までだ。」

 たぶんって…。笑いそうになるのを必死に堪える。

 それってケイちゃん次第なんじゃ…。

「うん。そうだよね。ママも忙しいよね。分かった。明日ならお願いできる?」

「あぁ」そう言ったケイちゃんは立ち上がって食器を片付け始めた。私も自分の分を片付けながら「今日は洗い物、私がするよ」とシンクの前に立つ。

 その後ろから何故か覆い被さられた。

 な…。い、いつ、お色気スイッチ入っちゃいました?

 動揺していると後ろから手を取られた。

「洗い物は禁止。こんなに可愛くて綺麗な手が荒れちゃうだろ。」

 手を持ち上げられて手の甲に柔らかい何かが触れる。

 チュッって音といい、絶対に唇なんだけど。

「大丈夫」って言っても布巾を渡されて必然的に拭く係に決定。

「だって作ってもらう上に片付けまでケイちゃんじゃなんだか悪い。」

「いいんだよ。俺は………お兄ちゃんなんだから。」

 言い淀んだ間から本当は私のお兄ちゃんなんて嫌なのかなぁって変な考えが頭をよぎる。

 一つ下ってだけなのに手がかかるもんね。私。

 気持ちを上げて行こうって思っていたのに今日はなんだか調子が出なかった。

 片付けが済むとケイちゃんは部屋に行ってしまって、寂しいようなホッとするような気持ちでソファに座った。

 気を取り直すためにも優ちゃんに買い物のお誘いをしようとスマホを手に取った。
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