冷徹部長の愛情表現は甘すぎなんです!
だから、由佐さんが努力している途中で他の会社に行くなんてこと、ありえないと思う。

「俺はさ、課長が北田さんのところへ行くなんて思っていないけど、噂って面白がって脚色されていったりするだろ? だから、なんかオフィスも変な空気になっていて……」

谷池さんが困ったような顔をしたとき、オフィスに由佐さんが入ってきた。「おはよう」と最初は普通だった彼だが、みんなの雰囲気や視線に違和感を持ったように眉を顰める。しかし、すぐに表情を戻してそのまま自分のデスクへと向かっていった。

自分へ向けられている目に気づいたよね……。
彼は絶対、他の会社になんて行かないと思う。でも、周りになにも言わない彼のことを見ていると、どう考えているのかはっきりとさせたくなる。

金曜日のこともあって気まずさはあるが、これは“市崎課長”へ訊きたいことだからと自分に強く言い聞かせて、わたしはお昼休み、給湯室でお昼休憩をしている由佐さんのところへ向かった。

課のみんなは外出や昼食でオフィスにいない状態なので、ある程度話し声が給湯室から漏れても今なら平気だろう。

「……市崎課長」

仕事のときは、わたしの上司だ。そういう意識でソファに座ってコーヒーを飲んでいる彼に声をかけると、相手も淡々とした表情で「なに?」とわたしを見た。

「課長が、他の会社に移るつもりなのではないかって噂が流れています。ちゃんと、課の人たちに話をするべきだと思いますよ。……わたしも、気になるので」
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