冷徹部長の愛情表現は甘すぎなんです!
「っ……待ってください!」

由佐さんを追いかけてエレベーターから降りたわたしは、背を向けている彼の腕を掴む。ガラス張りのドアの先は会社のエントランスになっていて、受付にいる女性がこちらを窺っていた。

「その程度の理由で、予定していた面接をなしにされるなんて納得できません」

「……その程度?」

振り向いた由佐さんは薄く笑って、わたしに掴まれている腕を一瞥した。
一方的に言われて黙ったまま帰るなんて、許せなかった。勘違いをして恥ずかしいし、ショックだし、悔しくて苦しいけど……!

「あなたこそ、なにか勘違いしていませんか? 流されて誘いにのっただけで、あなたのこと本気で好きになるわけがないです。もう一度会いたいと思うほど、楽しい夜だったのは認めますけどね!」

わたしは精一杯の強がりで捲くし立てた。たった一夜の関係だったけれど、本当は気になっていたし由佐さんのことをちょっと好きになっていた。

普段立ち向かうタイプの女ではないけれど、こうして強がって言い返したのは、悲しい気持ちを引きずってしまいそうな気がしたから。

別にこの会社で働けなくていい、違う職場を探す。もう二度と会うことはいだろうから、相手がどう思っても関係ないという勢いで放った言葉だったのだが、なぜか由佐さんは口もとを緩めた。

「ふうん。俺の勘違いか……悪かったね。流されやすい女は嫌いじゃないよ、好きでもないけどな」

腕を掴んでいるわたしの手をもう片方の手で退かした由佐さんは、歩きだしてガラス張りのドアへ向かった。
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