冷徹部長の愛情表現は甘すぎなんです!
「わたしが働いているビルの二十七階にある会社、事務員募集しているって! この前、飲みにいったお店にそこの社員がいて、猫の手も借りたいくらいだって話しているのが聞こえちゃった。紘奈、働けば?」

「え……夏穂子が働いているオフィスビルって、『B.C. square TOKYO』でしょう。そこに入っている企業って……無理、絶対無理。わたしにあそこのビルは華やかすぎるよ」

勧めてきた夏穂子に、わたしは思いきり首を横に振った。
『B.C. square TOKYO』は、この辺りで高年収者が最も集まっていると噂されるオフィスビルだ。五十五階建ての高層ビルの中には企業の他にも飲食店、フィットネスジムなどが入っていて、四十二階から五十一階はホテルになっている。

そのビルの食品会社で夏穂子は働いていて、わたしはビルが建つ先の信号を曲がったところにある会社に勤めていたから、仕事帰りによく食事をしたりしていた。
通勤でビルの目の前を通っていたわたしの個人的な印象は、あそこで働く人たちは仕事ができて服装はお洒落、男性はとくにエリート系というイメージがある。もちろん夏穂子だって、落ち着きのなさそうな感じだけどこう見えて仕事はできるタイプで、学生時代の成績も良かった。

企業の知名度なら以前働いていた職場だって負けていないのに、あのオフィスビルにはなんだか憧れのような、魅力的なものをわたしは感じていた。
だからって、その憧れに簡単に飛び込んでいけるほどの勇気はない。
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