君が残してくれたもの
「ママ、パパとはダメだったけど。だからって結婚したこと、後悔はしてないのよ」


届いたピザを頬張りながら、母はケロッとした様子で言った。


「でも、傷ついたでしょ」


「そうね、結婚した時はいがみ合う日が来るなんて思わなかった。なずなが生まれてとても幸せな日々が続いたの。だけど、いつしかパパとママは違う方向を向いて歩いていたのね。隣で同じ方を見てくれていると思っていたのに、気づいたころにはお互いはるか遠くにいたってわけ」


母がこんな風に話すのは初めてだった。


私もピザをかじりながら、母の話に耳を傾けた。


「その距離を埋めるために、何度も話し合ったけれど。そうするたびに、もう同じ方向を向いては歩けないんだ、お互いに変わってしまったんだ、そのことを痛感するばかりだったの。こんな二人じゃなずなのことも幸せにはできないって、思ったんだよ。ごめんね。」


母が不幸になってしまった、そう思い込んでいた。


「パパはなずなが大好きでね。離婚に踏み切ることを悩み過ぎて10円ハゲが3個もできてね…」


父がそんな繊細な人だったとは。


「パパには幸せになって欲しかったから。再婚して幸せになってくれたこと、寂しいよりもホッとしたの、正直なところ。なずなにとっては寂しいことだったと思うんだけどね。でも、ママはなずなといられたけど、パパは一人だったから。ママ以上に、傷ついたんじゃないかって思うのよ。そういう人だったから」

なんだ、母はすっかり前に進んでいたのか。

私は肩の力が抜けて、わけもなく笑った。


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