死にたがりは恋をする
 席につくと一つ前の席の、松岡阿久斗(まつおかあくと)、通称「悪党」が小さめの声で言ってきた。

「さっきは言え無くてゴメンな」

 眉を八の字にした、優しい顔で。

 正直、なんでこんなに優しいやつに悪党なんてあだ名をつけるのか、その理由が全く解らなかった。まぁ、多分その名前から付けられたんだろうが、個人的には絶対合ってない。

「別に気にしてない」

 いつものパターンだから、別に謝るようなことでもない。

 まぁ、アクトは心配性なのだ。僕と、自分自信の事の__

「親に相談とかしねぇの?」

 僕も、アクトのようなお人よしな人間に生まれたかった。

「ほら、僕の親って、こんな奴だからさ」

 右手を目の前に出し、ボタンを外して、右手首に纏わり付いている、少し血の色に染まった包帯を解く。赤紫になった殴られた跡や、ナイフで切り裂かれて今にも血が流れ出しそうな傷が、数々あらわになった。

 アクトは目を背けると、眉を八の字に曲げた。

「もう、しまっていいぞ」

「分かった」

 アクトの気分がすぐれていないことが、見なくてもわかったから、すぐに了承する。

 人も精神は丈夫に出来ている人と、出来ていない人がいる。アクトも丈夫じゃない人の一人なのだ。

「思ったんだけど、カイトはさ、誰に助けを求めるんだ?やっぱ、警察か?」
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