ガード
水浦翔のホテル内の巡回はさっそく始まり、横に構える引っ付き虫という役割は、私に沢山の初めてを体験させた。

ホテルの従業員は誰であろうとオーナーである彼が通れば一礼して仕事に戻る。

いらっしゃいませを意味するものなのだろう。

会長である一郎の場合は以外にもそんなことはなかった。

この暗黙のルールといえるべきものの難点は、横を歩いている私たちにお辞儀されているようでなんとも気まずいことだ。

普段慣れていないことをされるとやはり焦る。

あずさから「前を向け、そのお辞儀はお前じゃねえ」と、実に当たり前に指摘されない限り、私は従業員一人一人にお辞儀を返していた。

***

そうこうするうちに昼時となり、社員食堂であずさとお昼にしているときである。

「ホテルだけあって、食事もいつもと一味違うねえ。」

「そうか・・・?俺はあんまりわからない。」

たわいない、本当にたわいない話をし続けていた私たちに再び水浦翔という雷が、それはそれは勢いよく落ちてきた。

< 34 / 77 >

この作品をシェア

pagetop