あまりさんののっぴきならない事情
 



 なにを話しているのか知らないが、マスターは笑っている。

 他の用事をしながら、あまりはカウンターを窺っていた。

 しばらくして、海里が戻ってくる。

「お前の意志次第だとマスターは言ってるが、どうする?」

「なんの話ですか?」

「うちの会社にお前を派遣してくれないかと言ったんだ」

「はい?」

「うちの秘書室にだが」

 なにゆえっ!?

 ひ、秘書……?

 ……秘書?

 秘書……。

 父親の秘書などを見て、その実態を知っているにもかかわらず、あまりの頭の中では、昔ながらの美人秘書がおじさんの膝に乗り、愛人になって、捨てられ、人生、転落していっていた。

 恐らく、昨日の尊のせいだ。

 衝撃に固まったあまりは、何故か、海里の腕をつかんでいた。

 ちょうどそこに居たからだろう。

「……だから放せ」
とまた、海里に睨まれる。
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