そのキスで、忘れさせて
Fの曲で音楽番組が終わり、画面が切り替わる。
その画面を見て、心臓が止まりそうになった。
辺り一面に黒いスーツを着た記者が、文字通り敷き詰められていた。
そして、フラッシュを浴びて出てきたのは……
黒いスーツに身を包んだ遥希だったのだ。
ドキン……
こんな時にまで胸が甘く鳴る。
画面から遥希を取り出して、連れ去ってしまいたい。
これから遥希はどんなことを言うんだろう。
どこまであたしをどん底に落とすんだろう。
きっと、「ただの友達です」なんて言うのがオチだ。
友達のはず、ないのに。
遥希は遠いところに行ってしまったのに、あたしの身体の中にはまだ遥希の余韻が残っていた。
それがとても切ない。
本当に、遥希の言う通りかもしれない。
全てを捨てて結婚してしまえば楽なのかもしれない。
だけど……
あたし一人のために、遥希の将来を奪ってはいけないと強く思う。