肉食御曹司に迫られて
奈々は何も言わず、そっと湊の頬に触れた。
湊は驚いた表情をしたが、頬に置かれた奈々の手を握った。

しばらく、そうした後、
「早く治せよ。ゆっくり寝ろ。」
と手を離した。

「…うん、ありがとう。」
奈々は、その切ない表情の意味を問うことができなかった。

湊はいつもの顔に戻り、
「次は飯を食いに来る。いい?」
奈々はこれで、終わりではない事に安堵し、
「もちろん。好きな食べ物、また教えて?」
「ああ。明日早いから行くわ。」
と湊は立ち上がった。


「ホント、ありがとう。来てくれて嬉しかった…。」
玄関まで、送ってきた奈々は、笑顔を作ったつもりだったが、少し寂しげな顔をしていたようだ。

「そんな顔されると、帰りづらい…。」
湊も切ないく顔を歪め、
そっと、奈々を抱きしめた。
しかし、それは一瞬で離され、
「また、来るな。」と、ドアの向こうに消えた。
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