肉食御曹司に迫られて
湊は、自分の素性、いつから奈々を知っていたか、そして、父との約束。一つ一つ奈々に話した。
奈々は、静かに聞いていた。
「奈々を、自分の家の事に巻き込みたくなかった。決してきれいな世界じゃないから。なのに、自分から、声を掛け、いつの間にか惹かれてしまった。諦めようと何度も思った。」
奈々は、少しの沈黙の後、
「湊の言葉で聞けて良かった。」
と微笑んだ。

そして、言葉を選ぶように話し始めた。
「一番初めの質問の答え。何を知っていたか。」
奈々はチラッと湊を見て、また視線を下に落とした。

「初めは秘書の入江さんが来たの。お父様の伝言を伝えに。湊にもう、会わないでくれって。」
(- やっぱり奈々の所に行ったのか…)
湊はやり切れない思いでいっぱいになった。

「嫌な思いをさせた。すま…。」
その言葉に奈々は重ねた。
「謝らないで。それで、湊の抱えている物を理解した。その後に、湊と海を見に行った。」
(- あの日か)

「湊の気持ちを知りたかったの。湊もあたしの事を思ってくれているなら…」
そこで奈々は一息ついた。

「思ってくれているなら?」
湊は聞き返した。
奈々は、湊の目をはっきりと見つめ、
「諦めない。あたしは大丈夫。これが答え。だから、別れの言葉なんかじゃない。あたしの幸せはあたしが決める。」
奈々は、初めて今日笑った。

湊は呆然としながら、晃の≪奈々ちゃんは強いよ≫という言葉が頭をよぎった。
(- かっこよすぎだろ。)
湊は苦笑した。

「ただ、あたしがしようとする事を、湊に話したら、心配したり、お父様に何か言って関係が悪くなることは避けたかった。湊の抱えている物は、あまりにも大きい。あたしなんかのために、どうこうしていい物ではない。湊にはたくさんの社員と、クライアントを守る義務がある。そうでしょ?そして、お父様の樋口グループも大切に思ってる。違う?」

「そこまで、考えてくれて…。」
湊は、言葉が出なかった。
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