ドメスティック・ラブ

「まっちゃん、三十歳越えてお互い独りだったら結婚しよう!」

 そんな風に言ったのは確か社会人成り立ての頃。働き始めてからの気苦労を分かち合いたくて週末に皆で集まった、酒の席での話だった。

 当時私は学生時代から付き合ってた同じゼミ卒の彼と別れたばっかりで、まっちゃんは同じく学生時代のサークルの先輩に一途かつ健気な片思い中。一応二人ともフリーだった。
 失恋に浸っていた私はジョッキ片手に何で恋愛って上手くいかないんだろうこのままじゃ一生結婚できないとか何とか、今になって思えばたかが二十二・三で何言ってんだみたいな事を騒いで皆に宥められて、散々酒をあおった上でのこの発言だった。

「よっしゃ、分かった。しまっちが寂しく三十路に突入したらもらってやるよ」

 明らかにその場のノリ。お互い完全に酔った勢いの戯言だったし、その時の私は終わった恋についてしつこく愚痴りつつも、その先に新しい出会いがあって大恋愛して三十になるまでに結婚するっていう未来を全く疑ってなんかいなかった。
 周りの皆も笑いながら囃し立てるだけで、ネタの一つだと思ってたはずだ。

 私、三嶋千晶とまっちゃんこと松岡涼介は同じ大学の、同じサークルの同級生。ただしまっちゃんは一浪してるので年齢的には私より一つ上になる。
 うちのサークルの同期十三人は本当に仲が良くて、活動とは関係ない時でもご飯食べに行ったり遊びに行ったり旅行に行ったりは日常茶飯事だった。大学を卒業してそれぞれ社会人になってからも金曜の終業後に突然招集かかって皆で集まって飲みに行ったり、休日の朝六時に電話が鳴ってドライブ行こう!で急遽人数集めて出かけたり、皆でワイワイ気の置けない仲間達。
 その中で私とまっちゃんの関係はと言えば、手のかかる妹と世話焼きの兄というのが的を射た表現かもしれない。自宅が同じ路線の二駅先だったので飲みたがりの癖に酒に弱い私が酔っ払う度に家まで送り届けてくれ、皆でどこかへ行く時も実家住まいで家の車を使えた彼が一番に迎えに行かされるのがペーパードライバーで運転の出来ない私だった。

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