君とゆっくり恋をする。Ⅰ【第1話 〜第5話】(短編の連作です)


―― ……………………。


……ダメだった。何と言って書きだしたらいいのか、何と言って用件を伝えたらいいのか。仕事のメールのようでは、きっとドン引きされてしまう。敏生の頭の中は真っ白になって、何も浮かんでこなかった。


オフィスの端っこで若いOLとじゃれ合うように歓談している鳥山に、敏生はチラリと視線を向けた。
きっと鳥山だったら、まるで泉が湧き出るように女性に向ける言葉が出てくるに違いない。


――……いや、あの人にアドバイスをもらっても参考にはできないな。


エリートである敏生のプライドが許さない…というより、そもそも鳥山のようになりたいわけではない。


…と思っていた時に、鳥山も敏生に視線を向けて目が合った。すると、鳥山はいそいそと軽快な足取りで敏生のところへやって来た。


「今夜うちの課の女の子たちと飲みに行こうって言ってるんだけど、君も来ないか?」


鳥山から誘われて、敏生は反射的にその女の子たちの方へと目を遣った。すると、その女の子たちも反射的に色めき立つ。


「君は部署の飲み会にも来ないだろ?だから、『一度ご一緒したい♡』そうだ」


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