君とゆっくり恋をする。Ⅰ【第1話 〜第5話】(短編の連作です)



「…ふ~ん、マカロンかぁ。ウチの妹なんて、あんまり好きじゃないって言ってましたけど…」


ポツリと言った河合の言葉。それを敏生は気にしていないフリをしたが、実は過敏に反応していた。

嫌いなものを贈ってしまったら、喜んでくれるどころか困らせてしまう。


『芹沢くんは、チョコが嫌いって知ってたけど…』


そう言って、バレンタインのチョコを渡してくれた結乃。
自分の言ったただのハッタリが、どれだけ結乃を悩ませたのだろう…。そこに思いが至ると、敏生の胸がチクンと傷んだ。


とにかく、結乃がマカロンが好きかどうか…、それを確かめないと。
…でも、どうやって?メールで尋ねてみる?…でも、こんな場合、どんなふうに切り出せばいいのだろう?


仕事に関してのリサーチは、どんな手段を使っても徹底させる敏生だったが、結乃のことに関しては、まるでアイデアが湧いてこない。

深く考えずに行動してしまえばいいことなのに、何事においても周到な準備を欠かさない敏生の用心深さが、却って邪魔していた。
気持ちは焦るのに、日々の仕事にも追われて、どんどん日数だけが過ぎ去っていった。



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