不知火の姫
もちろんこんな夜中だったので、ビルの明かりは常備灯だけで、ほとんど点いていない。正面の出入り口も閉まっている。

どうやって中に入るのかと思っていると、葉月は慣れたようにビルの裏に回った。そして裏口のドアの電子錠の暗証番号を入力して、あっという間に中に入ってしまった。

中には常駐の警備員さんがいた。こんな夜中に高校生がと、見とがめられるんじゃないかとドキリとしたけど。でも葉月の顔を見ると、にこっと笑って通してくれた。

どうやら葉月がここの息子だと知っているらしい。しかも親切に、おじさんがまだ仕事をしている事と、節電で一番奥のエレベーターしか稼働していない事を教えてくれた。

薄暗い通路を進みエレベーターに乗ると、葉月は最上階のボタンを押した。

静かに動き出す、エレベーター。葉月はずっと、一言もしゃべらない。

私も、何も話す事は出来なかった。


やがてエレベーターは最上階で静かに止まった。




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