大切なもの【完結】

彼の好きな人─Ayaka

「香?」


教室につくといつもの元気がない香が席に座っていた。

「...彩香」


それだけ言って、席を立つ。


「え、香?」


あたしは席を立った香を追いかける。


追いかける途中かすった匂い。
郁人の匂いを胸に抱きながら。

今日も郁人が教室にいる。
それだけで嬉しかった。


「香?」


あたしは廊下にしゃがみこんでいる香の隣に座る。


「...彩香、帰りたい」


辛そうな顔。


「どっか具合、わるいの?」


あたしは香のおでこを触る。


「郁人が...」


突然の彼の名前におでこから手が離れる。


「...郁人?」

「好きな人いるって」


香の目から涙が溢れてくる。


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