干物ハニーと冷酷ダーリン


いざ、出陣。

あたしは出来る女。
バリバリのキャリアウーマンよ。


「すみません。ダンテ出版の川本です。企画部の藤堂さんお願いできますでしょうか?」


己を鼓舞する為、有りもしない人格を貼り付け、受付に優雅に鎮座する美人なお姉様に恐れ多くも声を掛けた。



「かしこまりました。あちらにお掛けになってお待ちください」



気品さ溢れる微笑みに、自称出来る女であるあたしも微笑み返しておいた。


後ろ姿までもめちゃくちゃ見られてる気がしてこれまでにないくらい気を引き締めて歩いた。


やだもー。帰りたい。

美人怖い。お手本のような微笑み怖い。

パンプスは痛いし、スーツは窮屈だし、背筋もバキバキだし。


もう2度と来ない。あたしがいるべき場所はあの雑然とした編集部なんだから。



待っている間、いたたまれなくて黒崎さんにメッセージを送った。



“帰りたい。印刷所の所長おハゲが恋しい”


“すまない。本当にすまん。帰ってきたらおハゲさんの所、連れてってあげるよ。滝が、、、。”


はっ?


“入稿間に合わなかったって♪”


はっ?そんな物理的に求めてない。
比喩じゃん。比喩。
印刷所で怒られてる方がまだマシってだけで、実物をもって来られても困る。


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